アディポネクチンと糖尿病

痩せるホルモンとして注目されているアディポネクチンは、糖尿病の状態も改善するとされています。そのはたらきや、そもそも糖尿病がどのような病気かを説明します。

アディポネクチン値と
糖尿病発症リスクの相関性

アディポネクチンのインスリン抵抗性へのはたらき

糖尿病研究の第一人者である門脇孝氏(東京大学大学院医学系研究科、糖尿病・代謝内科教授)らは、アディポネクチンと血糖値の関連性を知るためのマウス実験を実施しました。

実験に使われたマウスはそれぞれインスリン抵抗性・高血糖症・高中性脂肪血症を患った状態。そこに遺伝子組み換えで作ったアディポネクチンを補充したところ、それぞれのインスリン抵抗性・高血糖症・高中性脂肪血症の症状に改善が見られたそうです。

小型脂肪細胞も生成されない脂肪萎縮性糖尿病マウスと肥大脂肪細胞を特徴とする肥満 2 型糖尿病マウスでは,ともにアディポネクチンの欠乏・低下が認められること,アディポネクチンの補充によって両マウスのインスリン抵抗性・糖尿病はともに改善することを認め,アディポネクチンが,インスリン感受性を促進性に調節している抗糖尿病性アディポサイトカインであることを明らかにした。

引用元:門脇孝.“第 124 回日本医学会シンポジウム「脂肪細胞によるインスリン抵抗性の分子機構」”.http://jams.med.or.jp/symposium/full/124110.pdf(2003/8)

インスリンは通常「すい臓」から分泌され、体内の必要な個所に血液中の糖を配分します。しかしインスリン抵抗性があると、インスリンが分泌されても筋肉や肝臓がブドウ糖を吸収しないため糖が分解されず、血糖値が上がり、糖尿病を発症しやすくなってしまうのです。

また、もともと日本人は白人に比べるとインスリン分泌能力が弱いともいわれています。農耕民族だった日本人は、狩猟民族だった欧米人のように高カロリー・高脂肪のものを食べる習慣がなかったため、インスリンの分泌量が欧米人より少ないのです。

しかし、食事が欧米化している現代日本において、血糖値の上昇にインスリンの分泌が追いつかず2型糖尿病を発症してしまう日本人が増えています。

アディポネクチンはインスリン抵抗性とも関係し、血糖値の上昇を抑えると言われています。健康な状態であればアディポネクチンがインスリンのはたらきをサポートしてくれるのです。

それを解消する手段の一つとして、アディポネクチンを使った実験が行われています。マウス実験段階の結果ではありますが、肥満の検体はアディポネクチンの分泌量が少ないことと、アディポネクチンの分泌量を増やすことでインスリン抵抗性が改善されることがわかりました。

このメカニズムを利用した、糖尿病の新たな薬の開発や、より患者に負担の少ない治療方法の確立が行われています。

アディポネクチンの値が低いと糖尿病が発症しやすい!?

アディポネクチンは血糖値だけでなく糖尿病そのものにも影響を及ぼすとされています。

大勢の糖尿病患者を実例に、アディポネクチン濃度による糖尿病発症率を比較した報告を紹介します。

581例の糖尿病発症例と対照群572例についてアディポネクチン濃度を四文位して糖尿病発症のハザード比を求めたところ、アディポネクチンが最も高かった群のハザード比は0.18で、最低群に比して明らかに糖尿病発症が抑制されていたと報告している。糖尿病発症に関してはそのほか多くの報告があるが、いずれもアディポネクチン濃度の低い群からの糖尿病発症が有意に高いと報告している。

引用元:門脇孝. "アディポネクチンとその受容体". フジメディカル出版.(参照 2008-06)、Snehalatha C et al; Plasma adiponectin is an independent predictor of type 2 diabetes in Asian Indians. Diabetes Care 26: 3226-3229, 2003.、Spranger J et al: Adiponectin and protection against type 2 diabetes mellitus. Lancet 361: 226-228, 2003.

この報告は、「血中のアディポネクチン値の高さによって4つのグループに分け、それぞれの糖尿病発症を調べた」結果です。

成人の平均アディポネクチン値は、男性は8.3μg/m、女性は12.5μg/mと言われています。そもそもアディポネクチンは、小分子量・中分子量・高分子量という、少なくとも3種類以上の多量体構造をとって血液の中に存在しています。その高分子量が最も生活活性に役立つもので、インスリンのはたらきを強化する効果もあります。インスリンがきちんと作用して、摂取した糖をエネルギーに換えることができれば、血糖値も安定するのです。

アディポネクチンの値が高いと糖尿病が発症しにくいという調査結果は、2002年から複数のレポートで公表されています。

中でも、Duncanらが581例の糖尿病発症例と対照群572例について、アディポネクチン濃度の順に4等分して糖尿病発症のハザード比(相対的な危険度の客観的比較方法)を求めたところ、アディポネクチンが最も高かった群のハザード比は最低群と比べて明らかに糖尿病発症が抑制されていたことを報告。

アディポネクチン値が高い状態をキープできれば糖尿病発症リスクの抑制となる傾向があり、逆にアディポネクチン値が低い状態だと糖尿病発症リスクが高まるともいえるでしょう。

逆に、糖尿病によってアディポネクチンの値が低下するとは言い難いようです。

2005年11月から2007年10月にわたって男性111例、女性22例を調査した結果があります。その結果、空腹時血糖値とHbA1c値はアディポネクチンとの有意な関係が見られなかったとされています。

もちろん、より多くの症例による調査と今後の検討も必要ではあります。しかし、糖尿病によってアディポネクチンの値が変動することはなくても、アディポネクチンの値によって糖尿病発症リスクが上下すると判明しているなら、日頃から自身のアディポネクチン分泌量に注目したいですね。

糖尿病と非糖尿病患者ではアディポネクチン値は異なる?

伊藤千賀子(日本糖尿病学会理事・グランドタワーメディカルコート所長)らは、2005年~2007年の2年間男女合わせて1400名(男性824名 女性579名)の糖尿病と非糖尿病者を対象に健診を行いデータ収集と検討を実施しました。

平均化したデータ結果によると、年齢、BMI、ウェスト周囲径、収縮期血圧、総コレステロール、中性脂肪、総脂肪面積、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積の項目において、糖尿病群の方が優位に値は大きく、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値は低くなっています。

しかし、アディポネクチンに関しては、総高分子量アディポネクチンの糖尿病群と非糖尿病群での平均値に差は見られませんでした。高分子量アディポネクチンの総アディポネクチンに占める比率に関しては、糖尿病群の方が優位に高い結果が得られ、相対的に糖尿病患者の高分子量アディポネクチン値は増加しているという結果が得られています。

この結果から、糖尿病と非糖尿病でアディポネクチン値に優位な差は見られていないが、アディポネクチンの分子量比率は変わっている可能性があると言えます。ただ、糖尿病群と非糖尿病群を対象にしたこれらの研究は、まだ検討対象の総数が少ないこと、アディポネクチンの検査精度にも課題があるため、引き続き症例数を増やしたデータの集積が必要だと言えます。

糖尿病であってもアディポネクチンが低下するとは限らない

糖尿病群において、アディポネクチンと関連すると思われる要因との単相関を調べた結果では、総アディポネクチンはBMI、ウェスト周囲径、内臓脂肪面積と優位な関連が見られましたが、空腹時血糖値、HbA1c(ヘモグロビンA1c)値との関連は見られなかったとされています。
高分子量アディポネクチンも同様な結果となり、空腹時血糖値とHbA1c値との優位な関連は見られていません。

つまり、空腹時血糖値の上昇、HbA1c値の上昇がある糖尿病であっても、アディポネクチン値が低下するという結果は得られていないということです。糖尿病発病の危険因子となる、内臓脂肪面積やBMIとは相関があるにも関わらず、空腹時血糖値やHbA1c値と相関がないという結果は、当初予想していたものとは異なります。アディポネクチンと糖尿病のより具体的な関連に関しては、今後の研究結果やデータ集積を待つ必要があるようです。

糖尿病発症の予知因子としてアディポネクチンは活用できる

糖尿病とアディポネクチンとの関連に関しては、糖尿病によってアディポネクチンが低下するという結果は得られておらず、糖尿病群におけるアディポネクチンと空腹時血糖値およびHbA1c値の関連因子も見られていません。

現状では、内臓脂肪の蓄積やインスリン抵抗性の増加による高血糖など、アディポネクチン低下の因子を伴う状態が関連する糖尿病において、なぜアディポネクチンの低下がみられないのかは不明です。

ただ、非糖尿病群に関しては、アディポネクチン濃度と空腹時血糖値やHbA1c値に優位な負の関連が見られています。糖尿病の発症リスクは、血糖値が高いほど上がるため、アディポネクチン濃度の低下は糖尿病発症の予知因子としての活用が期待できます。

アディポネクチンの
血糖値・血管に対する
はたらき

アディポネクチンは血管の
ダメージ修復に役立つ

また、アディポネクチンには血管のダメージを修復するはたらきがあることもわかっています。

糖尿病などで血糖値が高くなった血液は、健康な状態に比べるとベタついていて流れも悪くなり、血管にとっても高負荷となりがち。アディポネクチンの分泌量が安定していれば、血管の健康維持という面でも大きな優位性があるわけです。

アディポネクチンを
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そもそも糖尿病はどんな病気?

糖尿病の症状と原因

血液中に糖が多くなる病気を「糖尿病」と言います。血液中の糖の割合が「血糖値」です。

人が食事をとると、血液中の糖は増加します。体内ではすい臓から「インスリン」というホルモンが糖をエネルギーに変換し、その働きが血糖値を一定の範囲に収めてくれるのです。

しかし糖尿病を患った場合、インスリンが減少し糖を上手く変換できなくなります。血糖値が常に高い状態になり、さまざまな病気を引き起こしてしまうのです。

初期段階の糖尿病には、ほとんど自覚症状がありません。おそらく病院で「糖尿病」と診断されても、ピンとこない人も多いでしょう。

ただし、自覚症状が出てしまったとき段階では、糖尿病の病状が進んでいる可能性大。次のような糖尿病の代表的な症状が出たら、すぐに病院へ相談しましょう。

コラム:2型糖尿病の原因は
遺伝と生活習慣による

糖尿病には複数の種類がありますが、当サイトで取り上げるのは2型糖尿病と呼ばれるもの。日本の糖尿病患者の95%前後がこの2型といわれています。

2型糖尿病の要因として考えられているのが、遺伝によるものと生活習慣によるもの。中高年になって発症するケースも多く、生活習慣病の一種にカテゴライズされるのは、食生活や喫煙・飲酒、日頃の運動不足などとの関係も大きいことに起因します。

糖尿病の診断基準

糖尿病の診断では、血液検査で主に次の数値をチェックします。

早朝空腹時血糖値が「126mg/dL」、75g経口ブドウ糖負荷試験が「200mg/dL」、随時血糖値が「200mg/dL」のいずれかに当てはまり、かつヘモグロビンA1cが6.5%以上の場合、糖尿病と診断されます。

糖尿病の治療法

食事療法

糖尿病は、食事で摂取した糖を体内できちんと処理できないことが原因で起こります。

大切なのは、糖をコントロールするインスリンの発生場所「すい臓」の負担を減らすこと。そのためには食事療法でカロリーを制限しなければなりません。

カロリー計算は、「標準体重×身体活動量」で求められます。

標準体重の計算式は、「身長(m)×身長(m)×22」。身体活動量の目安は、デスクワークの人が25~30kcal/kg、立ち仕事で30~35 kcal/kg、力仕事をする人で35~kcal/kgになります。

食事療法で注意する点は、食事で低カロリーを保ちつつ、たんぱく質・ビタミン・脂質・ミネラルなどの栄養をバランスよく摂ることです。

運動療法

運動療法を行なうことで、筋肉細胞や脂肪細胞の動きが活発になり、「血糖値が下がる」「血液循環が良くなる」「体重が減る」という効果を得られます。また、運動するとインスリンの働きも高まるのです。

運動はウォーキング・自転車・水泳などの有酸素運動がおすすめ。

有酸素運動は、十分に酸素を取り入れることができ、体全体の筋肉が鍛えられるため、脂肪を燃焼しやすい運動方法です。20~40分を1セットとして週3回行なうと良いでしょう。

すでに薬物療法やインスリン療法を行なっている方は、運動の最中に低血糖になるリスクがあるので、一度医師に相談するようにしましょう。

用語説明

インスリン抵抗性

肝臓・脂肪細胞・筋肉でインスリンがきちんと働かなくなった状態のこと。

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参考にした文献・サイト

アディポネクチンの
様々な病気・症状への効果